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最高裁判所第二小法廷 昭和55年(オ)488号 判決

主文

一  原判決中上告人の敗訴部分を次のとおり変更する。

上告人は、被上告人に対し、原判決添付別紙物件目録記載の各建物について大阪法務局昭和四二年八月二日受付第二四四九〇号をもつて上告人に対してされた持分二分の一に係る所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

被上告人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟の総費用は、これを二分し、その一を被上告人の、その余を上告人の各負担とする。

理由

一  上告代理人三橋完太郎、同渡部孝雄の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づき若しくは判決の結論に影響を及ぼさない事項について原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

二  職権をもつて、仮登記担保権の被担保債務の弁済と仮登記の抹消に代わる所有権移転登記手続との同時履行の関係の有無について調査すると、以下のとおりである。

1  本訴請求につき原審が適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

(一)(1) 被上告人は、昭和四一年九月三〇日、柳川博勝から上告人の貸主名義で二〇〇万円を返済期日昭和四三年九月三〇日、損害金日歩八銭二厘の約定で借り受け、柳川との間に、右借受金(以下「本件借受金」という。)債務を担保するため、本件各建物所有権の二分の一の持分につき代物弁済の予約(以下「本件代物弁済予約」という。)を締結した。そして、同四一年一〇月一二日、右持分につき上告人を権利者とする所有権移転請求権仮登記(以下「本件仮登記」という。)が経由された(以下本件代物弁済予約に基づく右担保権を「本件仮登記担保権」という。)。

(2) 本件各建物所有権の右持分につき、昭和四二年八月二日、上告人のために、本件仮登記の本登記手続として大阪法務局昭和四二年八月二日受付第二四四九〇号同年三月一〇日付代物弁済を原因とする所有権移転登記(以下「本件本登記」という。)が経由されたが、右代物弁済の事実は存しない。

(3) 柳川は、昭和五二年三月三一日到達の内容証明郵便をもつて、被上告人に対し、本件代物弁済予約完結の意思表示をしたが、その際に清算金の弁済の提供はしていない。

(二)  以上の事実関係のもとにおいて、被上告人は、本訴において、上告人に対し、被上告人が柳川に本件借受金及び遅延損害金を支払うのと引き換えに、本件各建物につき、弁済による本件仮登記担保権の消滅に基づく本件仮登記の及び無効な本件本登記の各抹消登記手続に代わる真正な登記名義の回復を原因とする前記持分の所有権移転登記手続を請求した。

2  原審は、前示事実関係を認定したうえ、本件本登記は、実体上の権利関係に符合しない無効なものであつて、抹消されるべきものであるところ、上告人は、被上告人による前記金員の支払と引き換えに、本件各建物につき本件仮登記の抹消を含む真正な登記名義の回復を原因とする前記持分の所有権移転登記手続をすべき義務があるとして、被上告人の本訴請求を認容した。

3  しかしながら、債務の弁済と当該債務の担保のために経由された仮登記担保権設定の仮登記の抹消登記手続ないし右抹消登記手続に代わる移転登記手続とは、前者が後者に対し先履行の関係にあるものであつて、同時履行の関係に立つものではないと解すべきである(最高裁昭和五六年(オ)第八九〇号同五七年一月一九日第三小法廷判決・裁判集民事一五三号三三頁参照)。けだし、消費貸借契約に基づく貸金債権を担保するため仮登記担保権を設定する契約は、消費貸借契約に附従するものではあるが、これとは別個の片務契約であつて、右契約自体からは牽連関係に立つような債権債務は生じないというべきであり、また、仮に、右のような同時履行関係を認めると、債権者としては、弁済を受ける前から登記抹消や担保物返還等の準備に着手しなければならなくなり、債権者に過重な負担を課し又は被担保債務の弁済を遅延させることになつて、相当でないからである。したがつて、右とは異なる見解のもとに、前示のとおり、前記債務の弁済と引き換えに本件各建物につき本件本登記及び本件仮登記の各抹消登記手続に代わる真正な登記名義の回復を原因とする前記持分の所有権移転登記手続の本訴請求を認容すべきものとした原判決には、民法五三三条の解釈適用を誤つた違法があり、また、右違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるといわなければならない。そして、被上告人の本訴請求には、本件仮登記の抹消登記請求部分のほかに本件本登記の抹消登記請求部分も含まれていると解されるところ、前示事実関係のもとにおいては、後者の請求部分は理由があり、これを認容すべきことは明らかであるが、右に説示したところによれば、前者の請求部分は失当であるから、これを棄却すべきである。

三  よつて、原判決中上告人の敗訴部分を右の趣旨に変更

(裁判長裁判官 島谷六郎 裁判官 大橋 進 裁判官 牧 圭次 裁判官 藤島 昭)

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